≪ 二、なんでここにいるんです? 12 ≫
「物理的に離れてたらどうしたって気持ちも離れていくもんよ。
私は彼に気持ちが変わった時迷うようなことさせたくなかったの」
諭すような口調で語ると、彩香が背もたれにもたれかかる。
「そんなもんですか……ねえ……」
今尚納得しかねている様子の彩香に、菜穂子は苦笑した。
「そりゃ、人それぞれでしょうけど。でも、ま、彼と私に限ってはそうね」
「はあ。でも、まだ好きなんじゃ辛いだけじゃないですか」
僅かに頬を膨らませる彩香へ対し、菜穂子は軽くかぶりを振ってみせる。
「そうでもないわよ。気楽なもんよ。勝手に好きでいればいいだけだから」
「不毛な気がしますけど」
難しい顔をする彩香を前に、菜穂子は半分以下になったティーカップを手に取った。
「いいのよ。私はこれがいいの」
ミルクティーをゆっくり回しながら答えると、彩香が長い息を吐く。
「わかりました。菜穂子さんはそれがいいんですね?」
念を押すように尋ねられ、菜穂子は彩香の顔を見る。
「そういうこと」
菜穂子は首を縦に振った。
だが、真剣な表情で問いかけてくる彩香の瞳を見て断言することはできず。
そのままカップの中のミルクティーを飲み干した。