≪ 二、なんでここにいるんです? 13 ≫
彩香と近くの喫茶店に行ってから3週間後の日曜日。
菜穂子は自動ドアが開いた途端、営業スマイルで応じた顔が瞬時に固まるのを自覚した。
「また来たんですか」
あからさまに邪険に扱ってみせたのだが、一真が堪えた様子はない。
この男、いろんな意味で強すぎる。
唇を噛み締めていると、一真が柔和な笑みを見せた。
「また来ました」
「すみません。一応止めはしたんですけど」
彩香が謝りながら今日も田中館長への弁当を持ってくる。
ベージュのシャツと白のタイトな長いスカート姿がショートカットの彩香に良く似合う。
(もしかしなくても、今日は仕事上がりにデートかな?)
美術館は月曜日が休みだから、日曜日ならば土日が休みの彩香でも合わせやすいだろう。
なんにせよ、上手くいっているのはいいことだ。
菜穂子は一真の推参に苛立つ心をなんとか抑え、彩香へ微笑んだ。