≪ 二、なんでここにいるんです? 15 ≫
幸いにも誰もいない館内に菜穂子の声がこだまする。
はっと我に返り両手で唇を抑える。
だが、こちらの焦りになんら気づいていない調子で、一真が明るく話を続けた。
「なら、俺が作ってきましょうか? こう見えても料理は結構得意なんです」
軽く胸を叩く一真に菜穂子は冷たい視線を送る。
「そうなんですか。それはよかったですね。
でも私も腕には自信がありますからお構いなく。
慣れた自分の味で十分満足していますので」
言い切ると、一真が後頭部へ手をやった。
「そんなに警戒しなくってもいいじゃないか。なあ、彩香君」
困ったように彩香へ同意を求める一真の言葉を菜穂子は遮る。
「いえいえ、あれで警戒するなって言う方が無理ですよ。ねえ、彩香さん」
漫画だったら今頃青筋が立っているところだ。
彩香へ強い視線を向けると、彩香が両手を前へ立ててきた。
「あー……ははは。私にはどっちが正しいがわかんないですけど、
お2人とも意思が強いってことだけはわかりました」
彩香の言葉に菜穂子は眉根を寄せる。
「それってどういう意味?」
勢いで訊くと、彩香が斜め上に目を向けた。