≪ 二、なんでここにいるんです? 16 ≫
「んーつまり、お2人ともお互いに対して一歩も引く気はないということですよね。
なら、私としては見守るほか方法がないってことですよ」
「なるほど」
確かに彩香の立場なら、自分も同じように答えるだろう。
内心で感心していると、彩香の横から深い溜め息が聞こえてきた。
「なら、しかたない。俺は今日は1人寂しくお昼を食べることにしますよ」
悲し気な一真の声に、菜穂子は笑顔で告げる。
「ぜひこれからもずっとそうしてください」
とどめを刺したつもりだった。それなのに、一真もとびきり爽やかな笑顔を向けてくる。
「彩香君も言ってたでしょう? 俺は諦めが悪いんです」
また来ます、と宣言し、一真が踵を返す。
自動ドアの外に消えた一真が完全に見えなくなるのを待ってから、
菜穂子は受付カウンターの中で地団駄を踏んだ。
「だー! なんなの! あの人!」
館内専用に履き替えたビジネスシューズを高く鳴らす。
靴底はゴム製のため館内に響く心配はあまりない。
苛立ちは頂点に達し、怒りのままデタラメなステップを踏んでいると、彩香がふと息を吐いた。
「一途というかなんというか。菜穂子さんが本当に好きなんですねーきっと」
「そんなの知らないわよ!」
彩香の言葉を切って捨てる。
だが、彩香は真剣な声音で尋ねてきた。