≪ 三、たまたま偶然見てただけ、だからね! 1 ≫
「週末の買い出しって一番骨が折れる作業なのよね」
本当は一日中でも寝ていたいところだが、そうもいかない。
月曜日、菜穂子は家の近くにあるスーパーで大荷物を抱えていた。
「駅からスーパーが近くないところもしんどい点だわよね」
自転車に荷物を置いてほっとする。
何気なく向かいの信号機を見て、あ、と小さく叫んだ。
「吉村さん?」
横断歩道の向こう側で若い男女に向かい何やらしきりに指を差している一真の姿があった。
声は聞こえないが、おそらく道案内だろう。
その証拠に、若い2人の男性のほうが地図らしきものを広げているのが確認できた。
(道を教えてあげてるのかしら?)
だからと言ってなんだと言うんだ。
自問自答して、自転車に跨った時だ。
カップルと一緒に談笑しながら、一真が横断歩道を渡ってきたではないか。
(ヤダ! こっちに来るじゃない!)
菜穂子は顔を伏せながら、一真の様子をそっと窺う。
一真はカップルを笑顔で見送っているところだった。
ほっとしたのもつかの間、一真の足元にカボチャが転がってきた。