≪ 三、たまたま偶然見てただけ、だからね! 3 ≫
「な、菜穂子さん? なんでここに?」
「たまたまです。それに今はそんな場合じゃないでしょ!」
幸いおばあさんに目立った怪我は見当たらなかった。
菜穂子はほっとして、転がった野菜の袋を買い物袋に入れ直す。
惣菜も買っていたようだが、おばあさん自らお腹に抱え込み、死守したらしく無事だった。
「ごめんなさいねえ。お手間を取らせちゃって」
おばあさんが何度も頭を下げてくる。
菜穂子は隣にいたのに自ら気づかなかったことを申し訳なく思いながら、
首を左右に振る。
「いえいえ、そんなことより大事がなくて本当に良かったです。ね、吉村さん」
一真へ同意を求めると、いつもとは違う砕けた口調で一真が頷いた。
「うん。本当だよ。地面につんのめったおばあちゃんを見た時は肝を冷やしたよ、俺」
「ありがとう、お2人とも。優しいところがとてもお似合いのカップルだと思うわよ」
優しく微笑まれ、菜穂子は慌てる。
「え?!」
身体の温度が急上昇して火照ってくる。
(な、な、な?)
菜穂子は半ば混乱気味に必死で否定した。