新田菜穂子の壊された日常 28
しみるけいさんによる写真ACからの写真

≪ 三、たまたま偶然見てただけ、だからね! 7 ≫



 菜穂子はおばあさんの後ろ姿が見えなくなるまでその場に留まった。

隣にいた一真も微動だにしなかった。

だが、おばあさんが完全に人混みの中へ消えてしまうのを見届けると、一真が不意に問いかけてきた。


「さて、菜穂子さん?」
「な、なんですか?」


 嫌な予感しかしないが一応尋ねると、予想通りの問いが戻ってきた。


「お茶でもしませんか?」
「なんで私があなたなんかと」


 そっぽを向いたものの、断ることには罪悪感があった。

それに、年齢に関わらず見ず知らずの人間に対して優しく接する一真の姿は、
何故か輝いて見えた。


「せっかくなんだから、行かないなんてもったいないと思いませんか?」


 断らないと確信しているのだろうか。いつもより控えめな誘い文句に、菜穂子は折れた。


「……わかりました。けど、コーヒー一杯だけ、ですからね」


 念を押して同意すると、一真の瞳が驚いたように見開かれた。


「もちろんですよ、菜穂子さん」


 一真が微笑む。


(反則でしよ、それ!)


 これ以上柔らかな微笑みは今まで見たことがない。

どくんと胸が脈を打ち、菜穂子は一瞬何も考えられなくなった。

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オープニング背景画像: acworksさんによる写真ACからの写真