≪ 三、たまたま偶然見てただけ、だからね! 8 ≫
壊れかけたアンドロイドのようになってしまった菜穂子は、
半ば引きずられるようにして喫茶店に来ていた。
そのままコーヒーの注文まで一真1人に任せ、黙ったまま時を過ごす。
やがてコーヒーがやって来て、菜穂子はその芳ばしい匂いにやっと自らの感覚を取り戻した。
コーヒーを一くち口に含み、苦味の中にある酸味を堪能する。
ほっと一息吐いた時、目の前の一真が口火を切った。
「さて、菜穂子さん。単刀直入に言わせていただきますが」
「……なんでしょう?」
さっきは不意打ちを食らったが、今度はそうはいかない。
菜穂子は丹田に力を込め、覚悟を持って一真を見つめた。