新田菜穂子の壊された日常 54
しみるけいさんによる写真ACからの写真

≪ 四、私の顔、なんか変? 19 ≫



「あ!」


 知らず叫ぶと、田中が眉根を寄せる。


「はい?」
「私、ID交換してませんでした」


 肝心なことを忘れていた。

だが自分のせいだけではない。

一真も連絡してくれと言ったくせに連絡先を言うのを忘れていたのだから。


(そうよ。私だけのせいじゃないわよ)


 内心で頬を膨らませていると、田中に苦笑されてしまった。


「菜穂子さんらしいですね。それなら……。そうだ。ちよっと待っててくださいね」
「え?」


 まさか一真の連絡先を知っているのだろうか。


「ええっと……」


 スマートフォンをタップしだした田中に恐る恐る聞いてみる。


「だ、誰に連絡を?」


 一真本人だとしたら、ちょっと待って欲しい。

まだ決心が固まっていない。

相手が直巳だとしても一緒だ。せめて深呼吸する時間くらい欲しい。

思ってストップをかけようと田中問いかけたのだが、
帰ってきた答えは予想とは違っていた。


「彩香さんですよ。今日お弁当お願いしてあったんで、
ついでに連れてきてもらおうと思いまして」


 彩香か。ほっと胸を撫で下ろしかけ、ちょっと待て、と立ち上がる。


「ちょ、ちょっと、ちょっと。直接ですか?」


 トークアプリでさえ緊張するのに直接とはどういうことか。

すぐさま非難の声を上げたが、田中はさも当然だと言わんばかりにこちらを見てきた。

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