≪ 二、なんでここにいるんです? 2 ≫
「ええっと、それは私のほうから説明させてください。
菜穂子さん、こちら吉村一真さんと言って、私の絵を見ていただいてる方で、一応師匠のような人です。
吉村君のお兄さんでもあるんですよ。吉村さん、この方は新田菜穂子さん。
この美術館の受付や事務を一気に担っている方です」
戸惑った表情のまま彩香がお互いの紹介を終えると、一真は頷いた。
「うん。よく知ってるよ。ねえ、菜穂子さん?」
「え!」
馴れ馴れしく名を呼ばれ意味ありげな視線を送ってくる一真を見て、菜穂子は苦虫を咬み潰す。
返答に詰まって唇を噛み締めていると、対する彩香の表情は一気に砕けたものになった。
「あ! そうだったんですか?! じゃあ、お2人はお知り合い?」
「え、ええ。まあ……」
視線を逸らし意味もなく書類の整理を始めていると、一真が弾んだ声を上げた。
「うん。この間偶然会ってね。直己もお世話になってることだし。
君には悪いと思ったんだけど、先にご挨拶させてもらっちゃったんだ。ね、菜穂子さん?」
邪気のない笑みを浮かべ同意を求めてくる一真に、菜穂子は引き攣った笑みで応える。
「あ、は、はい。そうですね」
やっと異変に気づいたらしい。彩香が心配げに顔を覗き込んできた。