お狐様が嫁になれと言い出しました 10
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≪ 第一章 出会いは突然に 10 ≫



(家だと良人君にかばってもらえないのにー)

 外で清美が動けなくなっていると、いつも良人が正義の味方のように助けにきてくれたのだ。
それが良人へ恋心を抱くようになったキッカケだった。しかし今は朝で、ここは自分の家だ。
誰かにからかわれているのならまだしも、誰もいないこの状況に清美は身震いした。

『こちらです。こちらですよ、清美様。先刻触れていただいたものですよ』

 また聞こえてきた。
清美は蝶番(ちょうつがい)が錆び、動きが鈍くなった扉のように顔を声のしたほうへ向ける。
だがそこにはさっきから頭を揺らしている狐の置物があるだけだ。

(あれ? こんなに艶子さんって笑ってたっけ?)
『やっとお声をかけられるようになれて嬉しゅうございます』

 未だに首を縦に振り続けている狐の口が動いた。清美は怯えることも忘れ、目を白黒させる。

『本日よりお狐様と夫婦の契りを交わされるとのこと。誠に喜ばしいことと存じあげます』
「なっ、はっ? え?」

 動揺しすぎて、うまく言葉が出てこない。

「ちょ、ちょっと待って、お狐様? 夫婦?」
『おや、違うのですか? ちっ、あのヘタレ狐』

 舌打ちをした置物へ突っこみを入れようとも考えたが、それよりも前に訊きたいことがある。

「ていうか、なんで艶子さんしゃべってるの?」
『否(いな)ことを。我らは昔から話せましたよ。ただ清美様に聞こえていなかっただけで』

 可笑しそうに狐はコロコロと笑う。

「いやいや、そうじゃなくてって、えっ? 話してたの? 昔から?」

 はい、と頷く置物に、清美は一瞬口を開けたまま呆けそうになった。

「で、でも私は聞こえてなかったんでしょう? なんで今さら聞こえるようになったのよ」
『ですから、今日よりお狐様と夫婦のちぎ』
「そんなものしてないわよ! しかもお狐様って誰」

 勝手に夫婦だと決めつけられるなんてたまったものではない。
片想い中ではあるが、自分にはすでに心に決めた相手がいるのだ。
清美は首振り狐の言葉を食い気味で否定した。

『それはもちろん、小笠原神社がお祀りしております神様でございますよ』

 鼻息を荒くするこちらに対し、置物は平然と受け答えをする。清美は目をまたたいた。
それは夢の中の話ではなかったのだろうか。

『清美様はいつも一緒にお食事をされているではないですか』

 清美は楽しそうに笑う狐の声を背に、階段を駆け降りた。

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