お狐様が嫁になれと言い出しました 12
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≪ 第二章 待ち望んだ日 2 ≫



「ばあさん! わしの出汁巻きまで勝手にお狐様にあげるなんてひどいじゃないか!」
「いいじゃないですか。久々にお狐様と話しているんですから邪魔しないでください」
「じゃ、邪魔って……ま、まぁーちゃんはわしのことをそんなふうに思っていたのか?」

 また犬も食わないやつが始まってしまった。これも一つの愛の伝達方法かと放置するべきか。
それとも大人気ないぞと止めに入るべきか考えていると、天の白金色の毛に覆われた耳が
階段を駆け下りてくる音を捕らえた。
 バンッと勢いよく開いたドアの音に振り返ってみれば、清美が口をあんぐりと開けて立っている。
淡い黄色のシャツから見える華奢な指先が自分をさしていることに、天はにんまりと笑みを浮かべた。

「ほ、本当にいる……」
「清美ちゃん、朝の挨拶もなしになんですか」

 園子が、勢いよく入ってきたせいで乱れている黒髪をそのままに呆けている清美を窘めながら、
焼いていた魚を持ってきた。

「うっ……おはようございます」
「はい、おはようございます」
「おはようさん。清美」
「おはよう、清美」

 ばつの悪そうな顔をした清美が挨拶すると次々に応えが返る。天も皆に続けとばかりに口を開いた。

「よい朝だな、清美」
「って、あんたには言ってないわよ!」
「そなたの呆けた顔はわれの好みだぞ。だがやはり一番は笑顔だな」
「なっ!」

 清美は顔を赤く染め、パクパクと口の開閉を繰り返す。

「ふむ。その顔もそれはそれでよい」

 朝からよいものが見れた。天が満足しながら頷いていると、清美がさらに顔を赤らめ喚き出した。

「だから人の話を聞けー! だいたいあんたには言ってないんだからね」

 天は額に血管を浮かせる清美を、眉をしかめながら見つめる。

「あんたではない。天だ。そなたにだけは、われの名を呼ぶことを許すぞ」

 『天』という名前は清美から言い出した名だった。
だから、正しくは許すも許さないもなかったりするのだが、きっと清美は覚えていないだろう。

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