お狐様が嫁になれと言い出しました 13
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≪ 第二章 待ち望んだ日 3 ≫



『おきちゅねしゃまは、てんこっていうキチュネなんれしょ? だからこれからはてんってよぶね』

 天は少女に名づけられた時のことを思い出し、口角をあげた。
名などとうの昔に忘れてしまった自分を可哀想に思ったのか。
舌足らずの清美に告げられた時には、安易なつけ方をされたものだと返事もしなかった。
だが、しつこいくらいに呼び続けられ、絆されてしまったのだ。

(あの頃からかのぅ。清美から目が離せなくなったのは……)

 小さい頃と変わらない黒目の大きな清美の瞳を見ていると、彼女の眉間に皺が刻みこまれていくのが
わかった。

「なんであんたの名前なんて呼ばなきゃいけないのよ。ていうか昨日からなんなのよ、あんたは!」

 視鬼(しき)の力を封印する前はこんなに癇癪持ちではなかったはずだが。
天は朝から怒鳴り散らす清美を不思議に思い、首をかしげた。

「まぁまぁ清美ちゃん、落ち着いて」

 園子が苦笑しながら宥める。しかしそれは火に油を注ぐ行為だったようだ。

「落ち着いてなんていられないでしょう! さっきだって艶子さん喋ったんだよ」

 ひどい剣幕でまくし立てる清美をよそに、天はほくそ笑んだ。
 艶子とは首振り人形の九十九(つくも)神のことだろう。
天が中庭にある御神木で生活をしていた頃、そばに置かれてあったものだ。
あの人形とは小笠原家の人間たちよりもつき合いが長い。それ故に九十九神としての歴も長く、神通力も強い。
その艶子と会話を交わすことができたのならば、封印は無事に解かれたということなのだろう。

「順調に力は戻ったようだな」
「どういうことよ?」
「ん? だから艶子の声が聞こえたのだろう?」

 睨んでくる清美を流し見ると、彼女はなぜかひるんだように後ろへ一歩下がった。
そこへ、孝一が神主らしい威厳のある声音で説明を始める。

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