お狐様が嫁になれと言い出しました 15
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≪ 第二章 待ち望んだ日 5 ≫



「われはお化けでも幽霊でもないぞ」
「私から見れば一緒よ!」

 清美が間髪入れずに牙を剥く。

(年頃のメスはこんなにも扱いづらかったか?)

 天は内心でため息を吐きながら清美に弾かれた手をなでた。

(どうしたもんかのぅ)

 部屋の中に気まずい空気が漂う。天が眉をひそめ思案していると、正子が前へ出てきた。

「申し訳ありません、お狐様。清美、お狐様になんてことを言うんだい! 謝りなさい」
「お祖母ちゃんは見えないからそんなこと言うんでしょ」
「清美ちゃん!」
「何よ!」
「清美」

 収拾がつかなくなった場を収めたのは孝一の通りのよい丸い声だった。
さすが神主というべきか。先ほどその神相手に悋気(りんき)を起こしていたとは思えない、
毅然とした態度で清美を見つめている。

「我が家は神をお祀りしている神社で、この方はその神様だ。
お前は突然のことで気が動転しているのかもしれないが、物事には言ってよいことと悪いことがある。
わかるね」
「……ごめんなさい」
「それを言うのはわしにではないだろう」

 肩をすくめて見てくる孝一にならうように清美もちらりとこちらを見た。
しかしすぐにその視線は正子へと向けられる。

「お祖母ちゃん、ごめんなさい……お狐様も……」

 清美が眉を八の字に下げ、しょぼくれた顔をした。その表情は幼い頃、御神木に登って叱られたときと
なんら変わっていない。天は、両方の穴から鼻水をたらし、泣きながら話す幼い頃の清美を思い出した。

「フハハハハ。清美は相変わらず面白い。小さい頃のままだのぅ。
孝一もコロコロと表情が変わったがそれ以上だ。よい、よい。われは嫁に寛大なオスだからな」

 目尻にたまった涙を指で拭いながら清美を見る。
目を大きく見開いたまま固まっていた少女が、さっき窘められたことも忘れ指をさしてきた。

「私はあんた、じゃなくてお狐様のお嫁さんになんてならないからね」
「天だと言っておるだろう。それに嫁になれば、昨日言ってたやつだって考えてやらなくはないぞ」

 ニヤリと笑って見せると、清美はポカンと口を開けたまま動かなくなる。しかしすぐに我に返ったようだ。

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