お狐様が嫁になれと言い出しました 16
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≪ 第二章 待ち望んだ日 6 ≫



「きったない! 何よそれ! 誰がなるもんですか!」

 清美は、八つ当たりするかのように床をドスドスと踏み鳴らしながら、部屋を出て行く。
背後から園子のため息が聞こえてきた。

「あっ、清美ちゃん、ご飯は……ってもうしかたないわね」
「これで清美はわれの嫁だな」

 自然と漏れる鼻歌を孝一に聞かせるように歌いながら、天は彼の皿の上にある出汁巻きを頬張る。
白髪交じりのいがぐり頭をした孝一が恨みがましい視線を向けてきた。

「お狐様、本人の合意を得られませんと認めませんぞ」
「合意があればよいのだろう。そんなものはすぐにでも言わせてみせる」

 天は、負け惜しみとばかりにちくりと呟く孝一へ口角をあげ微笑する。

(孝一を言い負かしたあとの茶は格別に美味いな)

 腹も満たされ満足した天は茶を含みながら、ふと清美の言った言葉でわからない単語があったことを
思い出す。

「それはそうと夕べから度々聞いておるが商店街とはなんだ?」

 孝一がキョトンとした顔を見せる。その間に正子が口を開いた。

「商店街とは、通りに色んなお店が集まっているところを言うのですよ」
「ここからすぐ下がった場所にあるんですよ。
お狐様が召しあがっているものはほとんどその商店街から購入したものなんですから」

 席についた園子が正子の言葉を補足する。正子がそれに頷きながら、でも、と困ったように頬へ手をあてた。

「最近は駅の中にデパートができてしまったせいか、お客さんが減っちゃったみたいで……
ほら、この前なんて十和子(とわこ)ちゃんとこの隣にあった雑貨屋さんがお店を閉じちゃったのよ」
「えっ、あの狸の置物がいる和物雑貨屋さんなくなっちゃったんですか? 私、結構好きだったのに」

 いつの間にか、正子と園子が井戸端会議を始めている。
天は彼女らの話を耳に入れながら、ここから下った場所にある通りを脳裏に思い浮かべた。

(なるほど、あれは祭りではなく商店街というものだったのか)

 ずいぶんと前に孝一から社を追い出され立ち寄った場所のことだろう。
たくさんの人間たちが賑やかに歩いていたから祭りか何かだと思っていた。

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