お狐様が嫁になれと言い出しました 18
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≪ 第二章 待ち望んだ日 8 ≫






「ここが商店街という名だったか? それにしても昔きたときより大分活気がないのぅ」

 食卓から瞬間移動した天は、上空から商店街を見下ろしていた。
まだ早い時間帯だからだろうか。通りは閑散としている。それでも開店の準備なのだろう。
店先では忙しく動き回っている人間がちらほらと見えた。

「人間が出てきていない所もあるな。今日は休みか?」

 天は道路へ降り立ち、雪雲色の着流し越しに腕を組みぷらぷらと歩き出す。
特に興味を惹かれることなく歩(ほ)を進ませると、香ばしい油の匂いが鼻をくすぐった。
その香りに導かれるようにふらふらと店の中へ入れば、よく肥えた白い割烹着のようなものを着た店主が
大判に成型された肉の上へ白いパン粉をまぶしている。そして流れるような動作で次々にそれらを揚げ始めた。

(ふむ、あれはメンチカツというものだな。とするとここは肉屋か?)

 通りに面したほうが店先なのだろう。透明な箱のようなものの中には生肉が並んでいる。
自分のことを見えていない店主が巨体を揺らしながら、店先と揚げ物をしている厨房とをせわしなく
行き来していた。

「あちち、やっぱり揚げたては美味いのぅ」

 天は、店主が店先へ移動したのを見計らってザルにあげられたばかりのメンチカツを摘んだ。
サクサクとした歯ごたえと胡椒とニンニクの香りが鼻を抜けていく。

「メンチカツもいいが、われはハムカツというもののほうが……ん?」

 もう一つ食べようと手を伸ばすが、揚げ物に触れる前に止めた。
斜め前から人ならざる気配を察知したのだ。肉屋から出て近づいてみると、店は灰色の雨戸のようなもので
閉められており中が見えないようになっていた。

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