お狐様が嫁になれと言い出しました 19
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≪ 第二章 待ち望んだ日 9 ≫



「ふむ。確かに孝一の言うとおりだな。ここであやかしが力を使ったようだのぅ……」

 天は微かに残る、煤けたような空気のよどみに顔をしかめる。
注意深くあたりを見回せば、この店と同じような店をいくつか発見した。
そのほとんどが灰色の雨戸をしている。だが中には開いている店もあった。

「あやかしが力を使って人間の店を潰そうとしているのか? それにしては生ぬるいような気もするが……」

 天にとって商店街が存続しようがしまいがどうでもよかった。
ただたんに、清美が存続を切望しているから気にかかっているだけだ。
それでも率先として動かないのは、面倒くさいというのもあるが昨夜清美が漏らした『良人君が……』という
一言のせいだった。
 あのとき清美はとっさにごまかしていたが、天にはわかった。
商店街のために祭りをしようなどと言っていたが、本当の動機はその男のせいに違いない。
清美を自分の嫁にと考えているのに、なぜ少女が好意を寄せている男のために力を使わなくてはならないのか。
それならば、このまま放置して男がいなくなるのを待ったほうがよいに決まっている。
天はそう結論づけ、再び歩き出した。
 カラカラと下駄を鳴らしながら歩いていると、ふいに人ならざるものの気配を感じ立ち止まる。
珈琲タイムと書かれた店の上に、ビューティーサロン美鈴と書かれた文字が光っていた。
その店の前で、人に化けた狸が艶やかな年増の女に話しかけている。

「美鈴さん、移転するなら今がチャンスですよ」

 一見したら紺色の背広を着た人間の大人に見えるが、ズボンの上には茶色のフサフサとした尻尾が
揺れている。

(相変わらず人間は目が悪いな)

 視鬼の力を持たない人間が、自分を含め人ならざるものの類を見ることは不可能だ。
とはいえ何かを察することは可能なのだが、あの人間は何も感じていないらしい。
その証拠に、疑いもなく狸と会話を続けている。

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