お狐様が嫁になれと言い出しました 20
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≪ 第二章 待ち望んだ日 10 ≫



「そうね。でもうちは昔からここでお店を開いてるし……」
「そうですよね。
長くお店を開いていらっしゃるからこその常連さんもたくさんいらっしゃったりするんでしょうね。
ましてや美鈴さんのところは腕がいいって評判ですから余計ですよね」

 相変わらず人の気を引きつけるのが上手い。天は巧みに人間の心へ入りこむ狸の手腕に舌を巻いた。
 元来、狐も狸も人を騙すのを得意とするあやかしだ。
たとえ疑い深い人間でも、その人間の弱い部分に漬けこんでしまいさえすれば赤子の首をひねるのと
同じくらい簡単に騙すことができる。
狐の場合は美しく化けて人間を惑わすのだが、狸は人間と話すことでその人間が望むものに変化させ
人間を惑わす。

「やーねぇ。そんなことないのよ……」
(あの人間はあともうひと押しというところか)

 まんざらでもなさそうに笑う人間へ狸はさらに畳みかけた。

「ですけどね、美鈴さん。
その常連さんたち、今うちのデパートへきてくださっているんじゃないですか?」
「……実はそうなの。ここだけの話なんだけどね、お客様にもデパートに出店はしないのか?
なんて聞かれたりもするのよ」
「そうだと思いました。やっぱり美鈴さんくらいの方であればデパートへの出店なんて当たり前なんですよ。
むしろ申し訳ありませんでした。今頃になってお誘いにきてしまって。
本来でしたらいの一番でお誘いにくるべきところですのに」
「そんな田野倉さんが謝ることなんてないのよ」

 人間はすっかり信じきった目を狸へ向けていた。狸の思惑どおりに行くのも時間の問題だろう。
狸が尻尾を揺らしながら高らかに笑っている。
ぐるんぐるんと回転する尻尾の端から煤のような黒いものが飛散されていた。

(ほぅ。あのよどみは狸が撒き散らしていたのか。
まぁ、われは手出ししないと決めたのだから関係ないな)

 よどみの原因も把握することができた。これ以上ここにいる必要はないだろう。
天は商店街への興味を失い、清美の通っている学校へと意識を向けた。

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