お狐様が嫁になれと言い出しました 25
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≪ 第三章 人ならざる者たち 5 ≫



 誰かが遠隔操作でもして動かしているのだろうか。

「どうかした清美ちゃん」
「へ? あ、ううん。あのさ、あそこにある……」

 清美は指をさしてからしまったと思った。もしかしたら自分だけが見えている変なものかもしれない。
どうごまかせばいいか。
 清美は自分の短慮に頭を抱えたくなった。

「あー、あの狸の置物?」
「へ?」

 清美が目を瞬きながら良人を見あげると、彼も懐中時計のあるほうへ目線を向けていた。

「あれこの間閉店しちゃった和物雑貨の店主さんが置いてっちゃったんだよね。
処分したほうがいいのかもしれないんだけどなんか可哀想だろ? だから置いたままにしてもらったんだ」
「そ、そうなんだ」

 どうやら良人は懐中時計がいるさらに奥の、酒瓶を担いだ狸の置物のことだと勘違いしたらしい。
清美はホッと胸をなでおろした。

『もしやあなた様は清美様でございますね』
「ひぃ」

 いつの間にか、何かを探すかのようにあたりを見回していた懐中時計が清美の足元にきていた。

「え、何?」

 清美は、きょとんとした顔でこちらを見てくる良人へ、なんでもない、と首を横に振る。
そのまま懐中時計を見なかったことにして彼へ話しかけた。

「それにしても困った人がいるもんだね」
「本当だよ。看板は取り外したんだから置物だって持って帰ればいいのにさー」
『清美様、どうか我が主を助けてくださいませんか?』

 関わりたくないというこちらの気持ちが懐中時計にわかるはずもなく、
時計はこげ茶色のローファーの上によじ登ろうとしてくる。清美は、それを拒みつつ踏まないよう足を進めた。

『お願いします清美様。どうか我が主を助けてくださいませ』
「無理!」

 時計のしつこいほどの嘆願に、気がつけば声を出していた。

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