お狐様が嫁になれと言い出しました 29
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≪ 第三章 人ならざる者たち 9 ≫



『わたくしは、一刻(いっこく)屋の代々の主に仕えている懐中時計でございます。
五年前、前主であらせられる店主が亡くなりました。
本来ですと、わたくしの主は跡を継がれるご子息様へ移行されるのですが前主のご命令で
今は十和子(とわこ)様にお仕えしております』
「はぁー。これはご丁寧にどうも。って、あなた十和子おばあちゃんの時計なの?」

 一刻屋の現店主、日暮(ひぐらし)十和子のことはよく知っていた。
祖母、正子の茶飲み友達で、清美自身幼い頃から今でも可愛がってもらっている。
いつも柔らかな笑みを絶やさない可愛らしい人だ。

「そうでございます。
聡明でおしとやかな、まさしく大和撫子そのものといった十和子様がわたくしの主でございます」

 文字盤をキラキラと輝かせ自慢げに語る時計の姿に、清美は口許を引きつらせながら先を促した。

「そ、それでなんの手助けが必要なの? できるかどうかはわからないけど、聞くだけなら聞いてあげるわ」
『そ、そうなのです! 清美様、我が主を狸からお助けください!』

 さっきまで冷静沈着だった時計が急に立ちあがり蓋の縁を駆け出す。
顔についている針という針がグルグルとすごい速さで回転していた。
清美はため息をつきながら時計に近づき、時計を手のひらに乗せる。

「わかったから。まずは落ち着いてよ」
『こ、これは申し訳ありません』

 清美は取り乱したことに恐縮する時計の姿が可愛らしく見え、くすりと笑った。

「それで狸から助けるっていうのはどういうこと?」
『百聞は一見に如かず。でございます清美様。急ぎ一刻屋へ向かってください。
今ならまだいるかもしれません』

 懐中時計は清美の手のひらの上を器用に立つと、留め具で一刻屋があるほうをさす。
清美はそれに頷き、時計を持ったまま一刻屋へと向かった。

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