お狐様が嫁になれと言い出しました 31
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≪ 第三章 人ならざる者たち 11 ≫



「もう会合始まっちゃうから迎えにきたよ。って、あれ、お客様?」

 今気がつきましたとばかりに清美は狸へ視線をやる。
十和子は一瞬驚いた様子だったが、こちらの思惑に気づいてくれたようだ。
微笑みを浮かべ、話に乗ってくれた。

「ううん、違うのよ。迎えにきてくれてありがとう清美ちゃん。
申し訳ありません。出掛ける用がありますので」
「あ、そうなんですか。それでは後日改めて伺わせていただきます」

 清美は、へらりと愛想笑いを浮かべた男を押しのけながら玄関へ入る。
そして男が外へ出たのを確認してからドアを閉めた。

『もう二度とくるな! 今度きたらただじゃおかないぞー』
「ふー」

 清美はポケットの中で暴れる時計を押さえながら、ドアに寄りかかる。
深く息を吐き出すと、クスクスと笑う十和子の声が聞こえ慌てて姿勢を正した。

「ごめんなさい」
「いいのよ。それより助かったわ。ありがとう」
「……あれって、やっぱりデパートの?」

 閉店した店の何店かが、デパートで開店したと聞く。
一刻屋にも勧誘の話がきているのかと清美がおずおずと話を切り出すと、十和子は頬に手あて眉を下げた。

「そうなの。この店は主人のご先祖様がずうっとこの場所で切り盛りしていた店だから移す気はないんだけど、
最近しつこくてねぇ」
「それを聞いて安心した。私もお祖母ちゃんも一刻屋さんがなくなったら寂しいもの」

 ただでさえシャッターを下ろしたままの店が増えたのだ。そのすべてがデパートへ移転したわけではない。
だがこれ以上商店街の店を減らして欲しくなかった清美は、十和子の言葉に心の底から感謝した。

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