お狐様が嫁になれと言い出しました 32
acworksさんによる写真ACからの写真

≪ 第三章 人ならざる者たち 12 ≫



「ふふふ、ありがとう」
『そうですぞ、代々お守りしてきた店を移動させるなど言語道断。
わたくしの目が黒いうちはそんなこと許しませんぞ』

 清美につられてか、十和子の顔に笑顔が戻るとポケットの中の時計がまた暴れ始めた。
清美はすっかり忘れていた時計の存在を思い出し、ポケットに手を入れる。

「そうだ。これ、おばあちゃんの時計じゃない?」
「あらやだ。またどこかで落としちゃったのね」

 懐中時計は十和子の手に戻るとぴくりとも動かなくなった。
それでいて話し好きなのか、声だけは相変わらず聞こえてくる。

『主が落としたのではありませぬぞ。わたくしが自ら助けを呼びに参ったのです』

 清美は偉そうな物言いをする時計を見て微笑んだ。

「きっとその時計、おばあちゃんのことが好きだから戻ってきたんだよ」
「そうかもしれないわね。ごめんなさいね。でも戻ってきてくれてありがとう」
『す、好きだなんて、そ、そのような……いや、参りましたなぁこりゃ』

 十和子が愛おしむように時計をなでると、時計は手のひらの上で照れくさそうにしていた。

「それじゃ、帰るね。お邪魔しました」
「いいえ、こちらこそお構いもしませんで」

 清美が手を振り玄関を出ると十和子が静かに振り返してくる。
反対の手から、時計の留め具が手を振っているかのように微かに揺れているのが見えた。

一つ前を読む   小説の部屋に戻る   次を読む





オープニング背景画像:MICHYさんによる写真ACからの写真