お狐様が嫁になれと言い出しました 35
acworksさんによる写真ACからの写真

≪ 第三章 人ならざる者たち 15 ≫



「今日なんて、ビューティーサロン美鈴のとこにもきたんだってよ」

 マスターの言葉に息を飲む音が聞こえた。二人の間にいる花屋が固い声音で問い返す。

「きたって、デパートの引き抜きか?」

 声もなく静かに頷くマスターに残りの二人は何も言わず動かなくなってしまった。

(その勧誘って十和子おばあちゃんのところにきてたのと同じやつかな?)

 だがあのセールスマンの男は狸が化けたものだと、さっき懐中時計が言っていた。
いったいどういうことなのだろう。それにもし人ならざるものが関わっているのならば、
自分たち人間が何をやっても太刀打ちなどできないのではないだろうか。

(このままじゃ本当に商店街がなくなっちゃう)

 そうなれば良人もいなくなってしまう。清美は予測した未来に、血の気が引いた。

「それでは皆さん、よろしいですか?」

 ふいに拍手が湧く。自分の考えに没頭していた清美には何が起こったのかわからず、周りを見回す。
隣に座っていたはずのリカコがなぜか丸太の隣に立っていた。

「やっぱり若い子は発想力があっていいね。
商店街でポイントを貯めて抽選会を開くなんてこと俺らには思いつかなかったよ」
「何言ってんだか、あんただって充分若いだろが。
まぁ、でも確かにあんたにはこんな今時のイベントなんて思いつかないだろうね」

 前のほうにいる総菜屋のおばさんと寿司屋の若旦那たちの愉しげな笑い声が聞こえてくる。
清美が悲観している間に、会合が終わってしまったようだ。
 賑やかに騒ぐ話を総括すれば、リカコが提案した企画を実行するらしい。
半ば強制的に参加させてしまったにも関わらずちゃんと貢献しているリカコを見て
清美は自分が情けなくなった。

(自分から行くって言ったのに……)

 発言どころか聞いてすらいなかった。
発案者のリカコの周りには店主たちが取り囲み、瞳を輝かせ笑い合っている。
良人もリカコの隣で頬を上気させていた。自分もその輪の中に加わりたい。
素直に彼らに話しかければ簡単に加わることができるだろう。しかし足はそちらへは向かず、
清美は場所を提供してくれた佐々野の妻に先に帰ることを告げ理髪店をあとにした。

一つ前を読む   小説の部屋に戻る   次を読む





オープニング背景画像:MICHYさんによる写真ACからの写真