お狐様が嫁になれと言い出しました 38
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≪ 第三章 人ならざる者たち 18 ≫



「僕の邪魔をしないで清美ちゃん」

 とどめていた涙が幾筋となって頬を濡らす。なぜこんなことになってしまったのだろう。
酸素が薄くなり朦朧とする頭で考えても明確な答えは見つからなかった。
 良人の手を引き剥がそうとするが、思うように力が入らない。
添えるだけになってしまった手が震え、振動が頬に伝わる。

(私、死ぬの)

 清美は瞼を閉じた。

「ウギャー!」

 顔に熱を感じると同時に首を絞めていた良人の手がなくなる。
酸素のとおりが急によくなり、清美は膝をついて噎せた。

「ガハッ……ゴホッ、ゴホゴホハッ」

 目尻にたまった滴がこぼれる。

(何があったの? 良人君は?)

 しかし、ぼやけた視界には良人どころか商店街すらなくなり、ただの白い空間が広がっていた。

「な、ゴホッゴホゴホゴホ……」

 勢いよく息を吸いこみすぎたせいで咳きこむ。立ちあがりかけた身を宥めるように誰かが背中をなでてきた。

「落ち着け、もう大丈夫だ」

 清美が聞き覚えのある声に振り返るとそこには、獣耳をつけた着物姿の美少年が立っていた。

「あんた」

 神社で祀っている神がなぜここにいるのだろう。そういえば昨日も帰り道で会ったから、
いつも神社にいるわけではないのかもしれない。清美はそんな取り止めのないことを考え、我に返った。

「ねぇ、良人君は? 良人君どうしちゃったの? それにここは? 商店街にいたはずなのに」

 立ちあがり、狐の着物の襟を掴む。彼の身体を揺らしながら問い詰めると、
背中を狐の尻尾がてしてしと叩いてきた。

「だから落ち着けと言うておろうに。まったく幻覚になんぞにはまりよって」
「幻覚? じゃあ、さっきのは現実じゃないの?」
「たく、せっかくそなたを迎えに行ったのに、なぜあんなところで狸などに襲われていたのだ?」

 狐は、襟をしっかり握り締めていた清美の手を外し、着崩れを直しながらこちらを見た。
呆れを含んだ眼差しに清美の頬がカッと熱くなった。

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