お狐様が嫁になれと言い出しました 39
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≪ 第三章 人ならざる者たち 19 ≫



「そんなこと知らないわよ! それより今のが幻覚って本当? あれは良人君じゃないの?」
「あぁ。狐火で脅してやったらすぐに逃げていきおったわい」

 ボッと狐の右手に青白い炎が灯る。清美は自慢気に鼻をツンとあげる狐を無視して話を進めた。

「じゃ、じゃあ、良人君も幻覚だったの? 彼が言ったのも全部狸の言葉?」

 もう一度着流しの襟に伸ばそうとしていたこちらの手を拒むように狐は後ずさる。
そして、何かを考えるように視線をあちらこちらへ巡らせたあと深く息を吐き、頷いた。

「じゃが、あの時われがくるのが遅れたらそなたは死んでいたかもしれぬのだぞ。
今だって、われの作り出した空間にいるから狸から追われずに済んでおるのだからな。
そなたはそこのところをもう少し感謝しすべきだと、おい清美、聞いておるのか?」
「よ、よかった」

 清美は足の力が抜け、座りこんだ。
さっき良人から言われた言葉も、嫌悪のこもった眼差しもすべて嘘だったのだ。
自分は良人に嫌われていない。それが嬉しかった。

「お、おい、清美どうしたのだ」
「本当に、ほんっとうによかったよぉーわあーあぁぁぁ」

 緊張の糸が切れたら涙腺も崩壊したらしい。
清美が子供のように声をあげて泣き出すと、先ほどまで偉そうにくどくど言っていた狐が一転して慌て出す。
それが面白くて清美は涙を流しながら、笑みをこぼした。


※※※


 一向に泣きやまないこちらに業を煮やしたのか。狐が四つの尾を持つ大きな獣の姿に変化した。
そしてこちらの腹に鼻面を突っこむと、今いる場所から清美の見知った場所へと移動した。
 涙でぼやけた視界に樹齢八百年以上にもなる大きな欅の木が映る。
社と自宅の中間地点に生えている大木は、狐の寝床であり、神社の御神木であり、
小さい頃から何かあるたびに清美が逃げこむ場所であった。
周囲を背の高い垣根が覆っているので、わざわざ御神木を見にくる人もいない静かな場所だ。

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