お狐様が嫁になれと言い出しました 40
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≪ 第三章 人ならざる者たち 20 ≫



 狐が木の根がむき出している部分に、こちらを抱えこむようにして寝そべる。
さらさらとした白金の毛に涙が吸いこまれていく。

「落ち着いたか?」
「うん」

 清美は涙の止まった顔を狐の腹に埋めた。太陽の匂いがする狐の毛の柔らかさと温もりに懐かしさを感じる。

「ねぇ、こんな風にあんたに慰めてもらうのって初めてじゃなかったりする?」
「ん? あぁそうだの。
われが見えていた頃は毎日のようにここへきては、われの懐の中や背に跨がって遊んでいたな」

 顔をあげ狐へ目線を向けると、彼は目を細め懐かしげに話した。

「そういえば、近所の子供らに苛められたときも家で泣けばいいものをわざわざわれの元まできて
泣いておったのぅ」

 嫌なことがあると、清美は自分の部屋や家族の前ではなく必ずここへきて泣いていた。
狐の存在すら忘れていたのに無意識に狐を探していたのだろうか。そんな疑問がふと頭をよぎった。

(だってここにくると誰もいないのに慰められてるような気がしたんだもん)

 もしかしたら今みたいに慰めてくれていたのかもしれない。
 ずっと見守ってくれた狐の優しさに触れ、ぎゅうっと胸が苦しくなる。
それと同時に不細工な泣き顔を見られていたかと思うと、一気に羞恥心が沸いた。

(なんで胸がドキドキしちゃうのよ。違うの、これは泣き顔を見られた恥ずかしさからくる動悸であって
お狐様の優しい瞳に見とれたわけじゃないの)
「で、清美」
「だからドキドキなんてしてないってば!」
「は? 土器? 怒気?」
「な、なんでもない。何?」
「あぁ。先ほどは何があったのか訊こうと」
「あー。さっきのことね。それはもちろん」

 清美は狐に不審がられる前に話を変えたくて、まくしたてるように狸と遭遇したことを語った。

「……それで会合を終えて帰ろうとしたら一刻屋にいた狸が目の前にいて、
気がついたら良人君に首を絞められていたってわけ」

 あとは見たとおりだよ。
清美が口を閉じると狐は何やら考えこみ、しばらくすると、こちらをじっと見つめてきた。

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