お狐様が嫁になれと言い出しました 41
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≪ 第三章 人ならざる者たち 21 ≫



「清美。そなたはもうあそこへ行くべきではない」
「どうして? 嫌よ」
「また狸に化かされるかもしれないのだぞ」
「その前に逃げるわよ。もう狸の顔だって覚えたし」
「狸の顔など覚えたところで変えられるのだから無意味だ。
それに、一度目をつけられたらそんな簡単に逃げられるわけが」
「大丈夫よ。だって私は狸が見えるんだし。顔が駄目なら尻尾があるじゃない。
お尻に尻尾が生えてるやつを見つけたらダッシュで逃げるわ」

 清美は拳を前で作り、やる気を漲(みなぎ)らせた。しかし狐は呆れたようにため息をつく。

「まぁいい、そなたの好きなようにせい。その代わり今すぐわれの嫁になれ」
「はぁ? 何言ってるの? なんであんたの嫁になんてならないといけないのよ!
ならないに決まってるじゃない」
「そなたを守るためだ。われの嫁になれば狸は手が出せぬ」
「嫌よ。だいたいあんたは神様なんだから人間に悪さする狸をどうにかしなさいよ!」

 清美は指をさし、狐を諌める。突如、狐が犬歯を剥き出しにして吠えた。

「われを神にまつりあげたのは人間の勝手だ!」

 人間の頭など丸呑みできるほどの大きな口だ。この口で喰われてしまったら自分などひとたまりも
ないだろう。全身を今までに感じたことのない恐怖が襲う。早く逃げなくては。
清美は震える足を叱咤しながら立ちあがった。

「だ、だったらいいわよ。わ、私だって勝手にするんだからー」

 狐に尻尾を巻いて逃げると思われたくなくて、清美は震える声で言いたいことだけ告げる。
そのまま狐の返答を聞かず、清美は覚束ない足取りで自宅へと走った。

「何よ、ちょっとはいいやつなのかもって思ったのに。あんな怒らなくたっていいじゃない!」

 狐から離れると恐怖よりも憤りが勝ってきた。

「助けてくれたことと慰めてくれたことは感謝してるけど、女の子を脅すようなやつにはお礼なんて
言ってやらないんだからねーだ」

 清美は玄関口へ立ち、腹立ちまぎれに御神木へ向かって叫んだ。

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