お狐様が嫁になれと言い出しました 42
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≪ 第四章 こじれる想い 1 ≫






「まったく、清美のやつはなぜ素直にわれの嫁にならんのだ」

 昨日狸に襲われ大泣きしたくせに、清美はまだ商店街から手を退こうとしない。
それどころかこちらの助言にも聞く耳を持たず、天は朝から気分が悪かった。

「まぁまぁ、お狐様落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるか! われの嫁が狸なんぞに幻術をかけられたのだぞ」

 雪雲色の着流しで御神木に寝そべっていた天は起き上り、尻尾をブンブンと振り回しながら幹を叩いた。

「だいたい清美も清美だ。人間のオスになど惚れおって!」
「そんなに毛を逆立てて、尻尾に葉が絡まっておりますよ」

 天は孝一のため息混じりの指摘に飛び跳ねた。自慢の尻尾が台無しになってしまう。

「どこだ、見えんぞ」

 後ろへ振り返り尻尾を見ようとするが、なかなかうまくいかない。

「あーあ、お狐様動かないでください。今わしが取りますから」
「うむ、任せる」

 天は尻尾を追いかけるのをやめ、御神木へ横向きに体を倒した。
近づいてくる孝一へ尻尾を向けると、孝一は慣れた手つきで毛に絡まった葉を取っていく。
毛羽立った尻尾が男の指で梳かれるたび、イライラした気分が凪いでいった。
 このまま眠ってしまうのもいいかもしれない。
天が心地よさに目を細めていると、孝一が話を切り出してきた。

「それでお狐様。狸は商店街の店を畳ませて何がしたいんでしょうか?」

 せっかくの微睡みを邪魔され、天は孝一を睨む。だが、孝一はひるむことなく見つめ返してきた。

「知らん。興味もない。
……ああ、そういえばデパート? とかいう場所へこいとか言っていたから勧誘か何かじゃないのか?」
「デパート! その狸はデパートと言ったんですか」
「うむ。言っておったぞ」

 しゃべったせいで眠気が遠のいてしまった。天はしかたがないと起きあがり腕を伸ばす。

「孝一もうよい。われの尾から手を放せ」

 しかし孝一は聞こえなかったのか、尻尾を握ったまま詰め寄ってきた。

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