お狐様が嫁になれと言い出しました 44
acworksさんによる写真ACからの写真

≪ 第四章 こじれる想い 3 ≫



「そなた耄碌(もうろく)したな。われが人間を憎んでおることを忘れたか?」

 まだ神と崇められるよりも遥か昔のこと。
人間たちは都合のよいときだけ、あやかしの力を持つ自分たち一族の元へ寄ってきては煽て利用し。
用済みとなればこちらの力の強さに恐れ、虫けらのように自分たちを殺そうとしてきた。
多勢に無勢で天はその時から天涯孤独の身だ。怒りに身を任せ人間たちへ復讐を誓ったが、
いくら殺戮を繰り返しても心の憂いは取れず。いつしか何をするのも面倒になり、
天は人間たちと関わらなくてもすむように山奥へ隠れ棲んだのだった。
それを勝手に神に仕立てあげたのは孝一の先祖だ。

(やはり、孝一もあやつらと同じなのか……)

 孝一だけは違うと思っていた。
この男だけは自分の力を利用し使い捨てた人間たちと似ても似つかない人間だと思っていたのに。
 怒りで身体中の毛が逆立つ。天は歯を剥き、吠えそうになるのを必死で抑えながら言葉を紡いだ。

「崇めるから何もしないでくれと頼んできたのはそなたの先祖だぞ。そして孝一。
そなた、われに何もしなくていいからと言ったその口で今なんと言った?」

 あたりを一触即発の空気が覆う。耳が痛くなるほどの静けさを壊したのは、孝一の謝罪と土下座だった。

「も、申し訳ございません。お狐様のお怒りはごもっともでございます」

 額を地面につけることも厭わず動かない孝一を目の当たりにし、天は頭に血がのぼりすぎたと我に返る。
それと同時に、孝一が他の人間とは違うことを再確認できて嬉しくなった。

「もうよい」

 天は素直になるのも照れくさく、ぶっきらぼうな態度で孝一を見下ろす。

「いいえ。わしが浅慮だったのです。
お狐様にそんな悲しみに満ちた顔をさせてしまい、なんとお詫びしてよいか」

 孝一は肩を震わしながら、さらに顔を地面に擦りつけた。

一つ前を読む   小説の部屋に戻る   次を読む





オープニング背景画像:MICHYさんによる写真ACからの写真