お狐様が嫁になれと言い出しました 45
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≪ 第四章 こじれる想い 4 ≫



「えぇぃ、もうよいと言うとろうに! ほら、さっさと顔をあげぃ」

 天は孝一の顔をあげようと、彼のそばへしゃがみこみ尻尾で顔をくすぐってみせた。

「ふふふ、お狐様くすぐったいです」

 こちらの思惑どおり孝一は顔をあげる。泣き笑いの顔でも土下座されるよりはいい。
天は心から安堵した。だがそれを孝一に気づかれるのが嫌で、ついつい減らず口を叩いてしまった。

「そなたはいくつになっても泣き虫だのぅ」
「わしは泣いておりません」
「そうか? まぁ、そういうことにしておこう」

 むきになって反論するところも昔と何も変わっていない。
清美によく似た気性を持つ孝一の姿に天は眦を下げる。

「本当に泣いてはおりませんよ、わしは。っと、どちらかおでかけですか?」

 消えかけているこちらを孝一が不思議そうな顔で眺めている。
気まずい雰囲気はなくなったが代わりに気恥ずかしさが増したように思え、天は孝一の元から逃げるべく
清美を口実に使うことにした。

「そろそろ清美も学校が終わる頃だろう? 散歩がてら迎えに行ってくる」
「なるほど。ではお気をつけていってらっしゃいませ」

 自分が怒りを露わにしたあとでも孝一は普通に接してくれる。
 幼い頃の清美もそうだった。怖れることも、軽んじることもなく自分を個のものとして扱ってくれる。
それがどれほど大変なことか。
彼らはいまいちわかっていないようだが、だからこそ自分はそんな彼らに惹かれるのかもしれない。
 天は頭を下げた孝一の旋毛をぼんやりと見つめる。
その間に、慣れ親しんだ欅の大木から店が立ち並ぶ商店街へと景色が移り変わった。

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