お狐様が嫁になれと言い出しました 46
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≪ 第四章 こじれる想い 5 ≫






 天は昨日と同じように上空から商店街を見下ろしていた。
時間帯が夕方に近いからか、昨日より人の行き交いが多いようだ。

「孝一にはわれを頼るなと啖呵を切ってしまったが、
清美が関わっている以上見過ごすこともできぬだろうな……」

 天は眼下を眺めながらぼやいた。
せっかく清美が好意を寄せている男を消すチャンスだったというのに、それも叶わなくなるだろう。

「いくら力があったとて、できぬことはできぬということか……ん? あやつは……」

 噂をすれば影がさすというべきか、清美の想い人である良人の姿を見つける。
なぜかその隣には人に化けた狸がおり、天は彼らに気づかれないよう地上へ降り立ちあとを追った。

(奴が裏切り者だとわかれば清美はわれと結婚するに違いないな)

 明るい未来を思い描き軽い足取りでついて行くと、灰色の雨戸が閉まった店の路地裏で良人たちの足が
止まる。天は姿を消したまま彼らに近づいた。

(あれが親玉というわけか)

 良人が清美と同じ服を着ている少女に化けた狸と親しげに話している。
こちらに都合のよい話が聞けるかもしれない。天はほくそ笑み、獣耳をそば立てた。

「それでその店主は誰の意見に弱いのかしら?」
「亡くなったご主人だよ。今でもご主人に貰った懐中時計を肌身はなさず持ってるみたいだし」
「そう、ありがとう。懐中時計と旦那さんね。じゃあ次は……」

 良人はすでに狸の幻術にかかっていた。目をトロンとさせ、夢心地といったふうだ。

(あれがあの男の好みのメスなのか? ただの豆狸ではないか。
あんな痩せっぽっちでちんちくりんなメスよりも肉づきのよい清美のほうが断然よいだろうに)

 やはりこの見る目のない男を清美から早々に引き離さなければ。
天は決意を新たに、まだ話が続いている狸たちのほうへ意識を集中させた。

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