お狐様が嫁になれと言い出しました 47
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≪ 第四章 こじれる想い 6 ≫



「本当にありがとう。助かったわ」
「これくらいなんでもないよ。僕にできることならなんでも言って」
「ありがとう、佐藤君。とりあえず……今はいいわ」

 女の媚びるような目つきに良人が鼻の下をだらしなく伸ばすのがわかった。
それも狸の計算のうちなのだろう。メス狸は満足げに頷くと、背広姿の狸を連れて良人の前から姿を消した。
 一気に静けさが戻る。天は、狸の気配が完全になくなったのを見計らってから良人の前に姿を現した。

「そなた、清美のそばから離れろ」
「え? 君、どこの子?」

 突然出てきたこちらに驚いたのか、良人が目を見開く。しかしすぐに柔らかい微笑みを向けてきた。
身長差がそれほどあるはずもないのに良人は屈みこんで視線を合わせてくる。
幼子にするような男の応対にカチンときた。

「そなたわれの言うことを聞かぬつもりか!」
「君、変わった話し方するんだね」
「しらを切るつもりか?」
「しら? なんのこと?」

 良人がくすりと笑う。軽くあしらうような男の態度に苛立ちを募らせる。

(人の子の分際でおちょくりおって!)
「仮装パーティーでもあるの? 猫耳なんかつけて」
「猫耳! 千里先まで聞き分けることのできるわれの耳をあのような脆弱な生き物に間違えるなど……」

 怒りで手が震える。

「もう我慢ならん! 人間! きさまに目にものを見せてくれるわっ!」

 天は手のひらに力を集中させた。青白い火の玉が手を包みこむように大きくなっていく。

「われの言葉を真摯に受け止めなかった己自身の浅はかさを後悔するがよい」

 天は十分に育った火の玉を良人へ見せつけるように持ちあげる。その時だ。背中に衝撃が走った。
無防備だった背後からの力に、天はつんのめるようにたたらを踏む。

「何やつ!」

 狸が舞い戻ってきたのかと即座に後ろへ振り返る。しかしそこに狸の姿はなく、代わりに目をつりあげ
息を荒くしている清美が立っていた。

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