お狐様が嫁になれと言い出しました 5
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≪ 第一章 出会いは突然に 5 ≫






 家に帰ってからも清美はどうすれば商店街の活気が戻るか考えていた。

(何かイベントみたいなことがあればいいんだけどなぁ)

 炊きたてのご飯を俵型のおむすびにして六人がけテーブルの誕生席に置く。
ちょうど真上に神棚があるその場所には、昔から白の陶器でできている狐の置物がある。
 代々狐を神として祀っている神主の家だからなのか、
まず先に炊きたてのご飯や季節の初物を置くことが小笠原家の習慣だった。

「はい。お祖父ちゃん」

 置物の右隣に座っている祖父、小笠原孝一(こういち)へご飯を渡す。
今日の務めを終え、ご褒美とばかりに一番風呂へ入った孝一は黒灰色の作務衣姿だった。

「あぁ、ありがとう」

 風呂あがりだからなのか、飲み始めた酒が回っているのか、顔が少しピンク色に染まっている。
そんないつもとなんら変わらない風景を見て閃いた。

「やだ、うちって神社じゃん! なんで今まで気づかなかったんだろう」
「ん? どうした清美?」

 孝一が、供物のように陶器の前へ置かれている漆でできた立派な盃へ酒を酌みながら訊いてきた。
毎晩神様へお酌をしてから呑み始めるはずの祖父の行動に清美は違和感を覚えたがそれには触れず、
思いついたことを口にする。

「ねぇ、お祖父ちゃん。うちの神社でお祭りしたい!」

 商店街の出入り口に繋がっている小笠原神社で祭りをすれば、
祭りに惹かれてきた客で商店街が活気づくはずだ。そうすれば良人の家の稲荷湯にだって客が
くるかもしれない。

「なんだい、藪から棒に」

 サラダを作っていた祖母、正子(まさこ)が孝一の隣に座り、訊いてきた。
黒と白の格子柄の割烹着を脱いだ正子の切れ長の目が訝しげにこちらを見ている。

「いや、だって良人君が……じゃなくて今までお祭りなんてしたことなかったしさ……」

 清美は良人に転校して欲しくないからとは言い難く口ごもった。

「それにほら、商店街も最近寂しくなっちゃったでしょう。だからお祭りでもしたら活気が出るかなあって」

 嘘は言ってはいない。だが真実でもない。少し気が咎めつつも、清美はまくし立てるように言葉を重ねた。

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