お狐様が嫁になれと言い出しました 50
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≪ 第五章 素直じゃない二人 1 ≫






 清美は恥ずかしさのあまり良人から逃げるように走った。
一秒でも早く彼の元から離れたい。その一心で走り出した速さは商店街の本通りへ戻ってからも
止まることはなかった。

(良人君の前であんなこと言うなんてひどい……)

 だが自分以上に傷ついた狐の顔が脳裏をちらつき、清美の足は勢いをなくす。
しまいには沼にでもはまったかのように身動きができなくなってしまった。

(なんであんな顔するのよ……)

 痛みを必死にこらえているような、見ているこちらのほうが切なくなってしまう眼差しだった。
加害者は狐で、被害を受けたのは自分のはずなのに。

(もうっ、なんで私があんな奴の顔を思い出さなきゃいけないのよ!)

 清美は頭をかきむしりたい気持ちを必死に抑え、止めてしまった足を再び動かした。

「待って清美ちゃん」

 声と同時に背後から肩を掴まれる。驚き振り返ると、良人が肩で息をしながらこちらを窺っていた。

「ど、どうしたの良人君」

 もしかして自分の気持ちを知って追いかけてきたのだろうか。

(こ、心の準備だってできてないのにど、どどどどうしよう)

 清美は良人と視線が合わないよう、目を泳がせた。

「いや、用っていうか、さっき清美ちゃんが泣いてたように見えて」

 ボソッと呟く声に目線を戻せば、良人が気恥ずかしそうに襟首へ手をあてていた。
 てっきり告白の返答かと思っていたが違っていたらしい。
清美は肩透かしを喰らったような、ホッとしたようななんとも言い難い気持ちになった。

「それだけのために追いかけてきてくれたの?」
「うん。
なんかここ二、三日清美ちゃんが変だって田沼さんも心配してたしさ。あっ、もちろん僕も心配したよ」
「そう、だったんだ」

 清美は、言い訳めいた良人の返事になんと言っていいかわからず平坦な声を出した。

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