お狐様が嫁になれと言い出しました 51
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≪ 第五章 素直じゃない二人 2 ≫



「本当、田沼さんって友達想いのいい子だよね」
「そうだね」

 抑揚のないかすれた声音で相槌を打つが、良人は気づくことなく笑みを浮かべていた。

「あのさ……田沼さんって彼氏とかいるのかな?」
「えっ?」
「いや、あの、うん。
清美ちゃんはもうとっくに気がついてるかもしれないけど田沼さんのこといいなぁって思ってて。
だから、その……」

 良人の突然の告白は、今まで微かな希望にすがっていた心を砕くには十分な威力があった。
それでも打ちのめされずにいられるのは、心の片隅でこうなることを予測していたからかもしれない。

「いないよ」
「え?」
「だからリカに彼氏はいないよ」
「本当?」
「うん。だから、良人君頑張って」

 自分は今、うまく笑えているだろうか。
失恋した早々、相手の恋を応援するなんて。なんてばかげているのだろう。しかも恋敵は親友ときている。
事実は小説よりも奇なりとは言うが、まさしくそのとおりだった。

「ありがとう」
「ううん。あっ、ごめん。私、急いで家に帰らないといけないんだ」

 清美は素直に喜ぶ良人の顔を正視できず嘘をつく。

「こっちこそ引き止めてごめんね」

 背後から聞こえてくる良人の言葉に返事をすることなく、清美は彼の元から脱兎の勢いで走り去った。


※※※


 とうとう彼の口から告げられてしまった。悲しくないと言えば嘘になる。けれど薄々気づいていた。
ただ認めることが怖かったから気づかない振りをしていただけだ。

(告白する前に失恋しちゃった)

 涙で頬を濡らしたまま御神木へとたどり着いた清美は、乱れた呼吸をそのままに大きな幹へ身体を預け
うずくまる。

「痛っ。もうなんでこういうときにいないのよ! お狐様のバカ!」

 勢いあまってぶつけた額がジンジンと痛む。
清美は止まることのない涙を拭うこともせず、ここにはいない狐へ八つ当たりした。

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