お狐様が嫁になれと言い出しました 52
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≪ 第五章 素直じゃない二人 3 ≫



「こ、この前は……っく、慰めてくれた……の、にぃーっく」

 痙攣する横隔膜のせいでうまく言葉が紡ぎ出せない。それでも言わずにはいられなかった。
 狸に化かされたときは狐の尻尾が自分を癒やしてくれた。
どんなものからも守ってもらえるような彼の温もりに清美は心の底から安堵したのを覚えている。
それは幼い頃から嫌なことがあるたび、ここへ泣きにきて感じていたものと同じだった。
狐の存在を忘れていた頃も、彼は自分を慰めてくれていたのだろう。その気配が今は感じられない。
 ふと、走り去る前に見た狐の顔が脳裏をかすめる。
頭に血がのぼり、何も考えず発した言葉が彼を傷つけてしまったのかもしれない。
 鳩尾がきゅっと締めつけられるように痛み清美は顔をしかめた。

「で、でも……ひぃっく、あれは……っく、お狐様のほうが……く、悪い、はずだもの……ひぃっく」

 後ろめたい自分を正当化してみるが、自分が悪いことをしてまったように思えてしかたがなかった。
収まり始めていた涙が再びじわじわと溢れ出す。

「なんで、良人君が狸の……っく、仲間だなんて、好いたやつなんて言うのよぉ」

 あの一言さえなければ、自分は逃げ出さずにすんだのに。そうすれば良人の告白だって聞かなかったし、
狐の言い分だってちゃんと聞けていたかもしれない。

「お狐様のバカー、わあーあぁぁぁ」

 やはりすべて狐が悪い。
次から次へと出てくる涙が良人に振られたからなのか、慰めてくれない狐へあてたものなのか。
自分でもわからなくなっていたが、それでも心の澱を洗い流すかのように清美は泣き続けた。

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