お狐様が嫁になれと言い出しました 53
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≪ 第五章 素直じゃない二人 4 ≫






『おやまぁ、いい年をした娘がそのように赤子のように泣いて』

 どこからともなく聞こえてきた声に涙を止める。

「つ、ヒック、つやっこさん?」
『まぁ、清美様ったら人を冷や奴か何かみたいに呼ばないでくださいまし』

 顔をあげ声の主を探すと、階段の飾り棚に置いてある黒光りの首振り人形が首を振ってこちらを見ていた。
首以外動かせるところなどないはずなのに、狐の人形、艶子はゆったりとこちらへ歩を進める。

「づやござーん」

 清美は、自分よりはるかに小さい艶子がこの悲しみから救い出してくれる天の助けに感じ、
すがりつきながら再び泣き出した。

『まあまあ、一体全体何があったのですか』

 目尻にピンクのシャドーが塗られている艶子の瞳が柔らかく微笑んだように見え、安心する。
 清美は声を震わせ、つっかえながらも彼女へ起こったことのあらましを伝えた。
艶子は、時折相槌を打つくらいでそれ以外は静かに聞いている。それがよかったのだろう。
声は鼻声のままだったが、涙はいつ間にか落ち着いていた。

「良人君の前で私の気持ちを言うなんてひどいでしょう」

 口に出したらまたムカムカしてきた。清美は苛立つ気持ちを艶子へぶつける。

「艶子さんだってそう思うでしょ?」

 しかし彼女はこちらの意見に賛同してくれなかった。

『お狐様の肩を持つつもりはないのですが、それはしかたがないのではないですか?』

 清美は艶子の真意がわからず顔をかたむける。

「どうして?」
『お狐様は悋気を起こしたのですわ』
「りんき?」
『やきもちのことですわ』

 いいですか、と前置きをして身じろぐ艶子にならい、清美も姿勢を正した。

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