お狐様が嫁になれと言い出しました 55
acworksさんによる写真ACからの写真

≪ 第五章 素直じゃない二人 6 ≫



『まるでお狐様のことを覚えていたかったかのような言い方ですね』
「いや、別にそういうわけじゃ……
だって力を封印しなければ簡単にお狐様の求婚を受けていたかもしれないじゃない?
なのになんで分の悪いことをしたのかなぁって思っただけで、そりゃいつでもあのモフモフっとした毛を
堪能できるよって言われたら喜んじゃうけど……」

 必死なればなるほど、艶子の笑みが増していく。
清美は墓穴を掘っていることに気づきながらも言葉を止めることができなかった。

「あーそうじゃなくて、えっと、だから、そう。
別にお狐様の求婚を受けたいとかは思ってないってこと。本当だよ?」
『ふふふ。清美様の仰りたいことはよくわかりました。答えは簡単です。
お狐様はご自分のことよりも清美様の安穏を望んだだけのことです』
「安穏?」
『えぇ。幼い頃から孝一以上の力を持っていた清美様ですからね。
あなた様の力を目あてに、人ならざるものはもちろんのこと人間からも目をつけられることを恐れていたの
でしょう』
「目をつけられる?」

 それはどういうことなのだろうか。清美は首をひねった。

『己の欲のために何かを利用するのは人もあやかしも同じですからね。
まだ何も知らない幼子である清美様にそんな汚い世界を見せたくなかったのでしょう』
「私のため……」

 慰めるだけではなく平穏に暮らせるように守ってくれていた。そんな彼に対して自分は何をしてきただろう。
知らなかったからとはいえ邪険にし、ぞんざいに扱かってしまった。

(なんで黙ってるのよ……)

 顔も見たくないと逃げ出したときに垣間見た狐の傷ついた顔が脳裏に浮かび、清美は胸が痛んだ。

「私の知らないところで優しくされたってわかるわけないじゃない」

 清美はこみあげてくる涙をこぼさないよう奥歯を噛み締めた。

『お狐様は孝一や清美様のためにしか動きませんからね。
何より利用されたあげく裏切られるつらさはお狐様自身が一番よく理解されていますから……』

 艶子がどこか遠くを見るように呟く。清美の目にはそれがひどく物悲しそうに映った。

一つ前を読む   小説の部屋に戻る   次を読む





オープニング背景画像:MICHYさんによる写真ACからの写真