お狐様が嫁になれと言い出しました 57
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≪ 第五章 素直じゃない二人 8 ≫



 清美は微笑ましそうな眼差しを向けてくる艶子たちの視線にいたたまれなくなり、言い訳がましく呟く。

「だ、だってこの間狸に襲われたばっかだし、お狐様はあんなんでも一応神様だし……」
『ふふふ。今のお言葉をお狐様が聞けばさぞ喜ばれるでしょうね』

 艶子が上品に笑いかけてくる。だが、彼女の目線は自分にではなく、そのさらに後ろへ
向けられているように感じた。清美は後ろに誰かいるのかと振り返ってみる。
だが、背後には欅の大木しかない。
 いったい艶子はどこを見ていたのだろうか。清美が首をひねっていると、
艶子が突然ずいっと詰め寄ってきた。

『時に清美様。恋に破れ傷ついた心を癒す特効薬をご存じですか?』
「恋に破れ? って、あの男に振られたのか?」

 今まで静かに傍観していた孝一が突如として清美たちの会話に割って入ってくる。

「な、なな、なんでお祖父ちゃんが、私が良人君を好きだって知ってるのよ!」

 清美は目を白黒させ孝一を凝視する。

「そうか、良人という名だったか」
「え? もしかしてお祖父ちゃんは私が誰を好きだったかは知らなかったり……とか?」

 自分はとんでもない勘違いをして窮地を作ってしまったのだろうか。嫌な汗が背中をつたう。

「名前を忘れ……ああ、いや、そんなところだ」
「そ、そんなあ!」

 墓穴を掘ってしまった。自分から進んで好きな人の名前を言ってしまうなんて。清美は頭が真っ白になった。
まるで誘導尋問にひっかかった犯人の気分だ。

(今日って厄日? ううん今日だけじゃない。誕生日の日からずっと厄日だ)

 清美はがっくりと肩を落とした。

「で、どうなんだ。振られたのか」

 動かない清美に孝一が鼻息を荒くして詰め寄ってくる。
清美は気遣う素振りも見せず、歯に衣着せぬ言い方をする祖父へ悲しみよりも怒りを感じた。

「お祖父ちゃんのバカ! デリカシーなさすぎ!」

 傷心の孫娘相手になんという暴言を吐くのだろう。たとえ振られていないと思っているからこその
言い方だとしても、もう少しオブラートに包むべきではないだろうか。あれでよく神主が務まっているものだ。
清美は憤慨している気持ちを足へこめ、ドスドスと音を立てながら御神木をあとにした。

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