お狐様が嫁になれと言い出しました 59
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≪ 第五章 素直じゃない二人 10 ≫



「まあまあ、お狐様も艶子様もそのへんにして」
『孝一は黙ってなさい。いいですかお狐様。この際ですからはっきり言わせていただきます』

 艶子が鼻息を荒く居住まいを正す。彼女の気迫に圧されたのか孝一は黙りこんでしまった。

『だいたいあなたはおなごを気遣うことをしなさすぎます。あれでは清美様が可哀想ではありませんか。
それに慰めるのなら影からではなく匂わせる程度に面(おもて)へ出さないでどうしますか。
好感度をあげるチャンスをむざむざ手放すようなことをしてなんてもったいない!』

 天はすごい剣幕でわめく艶子の声に耳を伏せた。
遠くまでよく聞こえる耳には彼女の金切り声は凶器以外の何ものでもない。

「だ、だがそれは清美の力を封印していたからしようがないではないか」

 艶子の声に一応の弁解をしてみたが、やはり彼女には通用しなかった。
艶子はけんもほろろに言い返してくる。

『でしたら封印を解いた今、なぜ慰めておあげにならないのですか!』
「それは……清美が顔を見せるなと」

 艶子の目力に耐えきれず目を逸らすと、落雷にも似た怒号が降ってきた。

『そんなことを真に受けてどうしますか!』
「われだって傷ついているのだ!」
『清美様のほうが何十倍も傷ついております』

 天は耳と尾を立て威嚇しながら反論した。が、艶子が平然と返してきた言葉にうろたえる。

「そ、んなことはわれだってわかっておる。だからそなたに頼んだのではないか。
清美にあんな悲しい顔をさせたわれがおめおめと慰めるなど……」

 走り去る際に向けられた清美の眉をひそめる顔が頭をちらつき、耳と尻尾が重力に逆らうことをやめた。

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