お狐様が嫁になれと言い出しました 62
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≪ 第五章 素直じゃない二人 13 ≫



「あっ、でも本人の合意がないと認めませんからね」
「合意があればよいのだろう。合意が。そんなものはすぐにとれるさ」
『顔も見たくないと言われたくせにですか?』
「ぐっ」

 何食わぬ顔で呟かれた艶子の突っこみに、天は言葉を詰まらせる。再び開戦かと艶子を睨むと、
孝一が間に割って入ってきた。

「まあまあ。きっと清美も今頃後悔していますよ。だから一緒に母屋へ戻りましょう」
「…………われのほうがまだ無理だ」

 孝一の言葉を疑うわけではないが、清美に会ってまたあの悲しみに満ちた眼差しを向けられるかもしれないと
思うだけで胃が締めつけられるように痛んだ。

「え、あ、ちょ、お狐様どこにいらっしゃるのですか?」

 天は孝一からさし伸べられた手を素直に取ることができず、彼らの視界から姿を消した。

『本当に意気地のない狐なんだから! 孝一、あんな狐は放っておいて母屋へ帰りましょう』

 こちらの姿が見えなくなったとたん慌てふためく孝一とは対称的な艶子の言葉が胸を抉った。

(意気地がないか……そのとおりだな)

 天は自嘲気味に唇を歪ませる。

「ですが……」

 こちらを気にしてか視線をさまよわせる孝一へ艶子がため息をつく。

『大丈夫よ。どうせ姿を消したままついてくるのだから』

 艶子の言葉に納得したのか。孝一は探すのをやめ、首振り人形を抱えながら母屋へと歩き出した。

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