お狐様が嫁になれと言い出しました 66
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≪ 第六章 明らかになる事実 4 ≫



(もしかして視鬼の力がなくなったとか?)

 だからいくら探しても狐の姿を見つけられなかったのか。

(そんな。だってまだ、ごめんもありがとうも言ってないのに……)

 行き着いた考えに清美は目の前が真っ暗になった。

『……様』

 ふいに何かに呼ばれたような気がして清美は周囲を窺う。しかし何も見当たらない。

「痛っ!」

 首をかしげ前へ向き直ると同時に右人さし指に挟まれるような痛みが走った。
それと同時に耳の空気が抜けた時のように頭がすっきりとする。
 静かだった教室が急にざわめき出した。

「あれ?」
『よかった。正気に戻られたのですね、清美様』

 人さし指の痛みは懐中時計が留め具で挟んでいたせいだったらしい。
いまだに清美の人さし指と繋がったままでいる時計は鎖を目一杯に伸ばしながら、机の中央で飛び跳ねていた。

「え、何、どういうこと? 授業中だったんじゃ……」
『清美様は今まで狸に化かされておったのですよ。それをわたくしめが解いてさしあげたのです』
「え、いつの間に? だって狸の姿なんて」

 清美は時計の言葉に目を見張る。

『清美様を化かそうと忍びこんでいたのではないですか?』
「そんな……え、じゃあリカの好きな人がいるって話は?」
『さあ、わたくしに聞かれましても……』

 時計は清美の手から留め具を外し、困ったような顔をした。

「あ、そうだよね」

 いったいどこで狸に化かされたのか。
清美は眉間に皺を寄せ朝からの記憶をたどってみるが、何も引っかかるものがなかった。

『そんなことより清美様、一大事なのでございます!』

 黙考を続ける清美をよそに、懐中時計はカツカツと音を鳴らしながら机の上を走り出す。

「ちょ、ちょっと落ち着いて」

 清美は時計の動きをとめようと小声で諫めた。
こんな普通の人間がたくさんいる場所で目立つ行為をされたらたまったものではない。
清美は懐中時計を両方の手のひらで包みこむように持ち、周りを窺った。

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