お狐様が嫁になれと言い出しました 67
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≪ 第六章 明らかになる事実 5 ≫



『大丈夫でございますよ清美様。われらの姿は普通の人間には物としか映りませんから』
「それはそうかもしれないけど……」

 時計の姿が物にしか見えなくても、物に話しかけているところを見られ変な勘違いをされたら困るのだ。
そう懐中時計に反論したかったが、きっと物だった時計にはこちらの気持ちなど理解できないだろうと諦めた。

「まぁいいわ。それで何があったの?」
『そうでございます。十和子様が、十和子様がー』

 涙などあるはずもないのに清美の目には懐中時計が悔し涙を流しているように見えた。

「ちょっと泣かないでよ、ね。落ち着いて。それで十和子おばちゃんがどうしたの?」
『狸に、狸なんぞに化かされてしまいました』
「え? だって一昨日追い払ったじゃない」

 十和子との商談を邪魔したからと清美がその狸に報復されたことは記憶に新しい。
清美は締めつけられた首筋をなでた。あのとき狐に助けてもらわなかったらと考えるだけでゾッとする。

『あれはその場しのぎだったのです。しかもあやつらは十和子様の弱みに気づいてしまった』
「その場しのぎって……ううん。それより弱みって何よ?」
『先代様です。清美様、今ならまだ間に合うかもしれません。どうか十和子様を、一刻屋をお助けください』
「わ、わかったわ」

 自分が行ったところで何ができるかわからない。むしろ清美自身がまた狸に化かされる可能性だってある。
それでも清美はいても立ってもいられなかった。

(何ができるかなんて行ってから考えればいいのよ)

 清美は音を立てて椅子から立ちあがり、懐中時計を手に持ったまま教室を出た。

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