お狐様が嫁になれと言い出しました 68
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≪ 第六章 明らかになる事実 6 ≫






 表通りに面した店の入り口にある格子ガラスの扉へ手をかける。
店のカウンター越しには十和子が定形外の茶封筒の中に書類のようなものを入れて亡くなったはずの前店主へ
渡そうとしているところだった。
 十和子が嬉しそうに笑っている姿を見て、清美は胸が押しつぶされそうになった。

(亡くなった人にまで化けて騙すなんてひどい)

 唇を噛みしめ、親しげに話している二人を見据える。
なぜかその隣には制服姿の親友が違和感なく混ざっており、清美は息を呑んだ。

「なんでリカが……」
『清美様、そんなことよりも十和子様をお助けくださいませ』

 固まる清美の手の中から懐中時計がもぞもぞと顔を出す。

「あっ、そうだった。ごめん」

 清美は取っ手を掴み勢いよく扉を開けた。

「ちょっと! 何、リカに化けて十和子おばあちゃんを騙そうとしてるのよ!」

 啖呵を切って中に足を踏み入れると、四つの瞳が一斉にこちらの元へ集まった。
人が乱入してくるとは思っていなかったのか人間に化けている二匹の狸が目を丸くする。
十和子だけが心ここにあらずといった様子で前店主である彼女の夫に化けている狸を見つめていた。

『十和子様』

 時計の悲しげな声音が店内に響く。その声で我に返ったのか、リカコに化けている狸が
信じられないものでも見るような顔つきで呟いた。

「清美、なんでここに」
「ちょっと馴れ馴れしく人の名前を呼び捨てにしないでよ」

 清美は顔をしかめ、狸を睨んだ。

『清美様。あやつです。あのメス狸こそがすべてを企てたボスでございます。どうか早く十和子様を』

 時計が留め具をブンブンと振ってリカコに化けている狸を指さす。
清美は時計の言葉に頷き、再度狸たちに要求した。

「早く十和子おばあちゃんと封筒を返して!」

 しかしこちらの意見を鼻で笑うかのように、狸たちは互いに顔を見合わせくすりと笑う。

「清美はいつも威勢だけはいいのよね」
「なっ!」

 腰に手をあて話す姿や口調があまりにもリカコにそっくりで、清美は言葉に詰まった。

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