お狐様が嫁になれと言い出しました 70
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≪ 第六章 明らかになる事実 8 ≫



「ちょ、十和子おばあちゃんをどこへ連れて行く気!」

 止めようと二人の元へ近づこうとする前に、リカコ似の狸に阻まれる。

『十和子様! 狸め汚いぞ!』

 時計が小さい体を使って喚いてみても狸には効いた様子もなく。
見えていないわけでもないのに存在そのものを無視し、子分の狸に向かって話しかけた。

「店主さんのこと丁重に扱うのよ? ……残念だけどあんたは通さないわ、清美」

 くだした命令に狸が無言で頷いたことを確認するとメス狸は腕を広げてきた。

「それは……」

 広げられたときに見えた左手首の物体に清美は目を見張る。

「え? あぁこれ? さっき、取りに行くって言ってたでしょう」

 狸は左手首につけられたこげ茶色の腕時計をこちらに見せつけるように近づけた。

「それはリカにあげたものなんだから返してよ!」
「やだ、まだ狸が化けてるって思ってるの?
やーね、これは私があんたから去年の誕生日プレゼントにもらったものよ。
秒針に葉っぱがついてて気に入ってるの」
「何を……え? そんな……本当にリカなの?」
「やっと信じる気になった?」

 本当にリカコが商店街存続の危機を作っている首謀者なのだろうか。
目の前のことが受け入れられず呆然としていると、懐中時計が手から飛び出した。

『十和子様! お待ちくださいませ』
「もう! あんたさっきからうるさいのよ!」

 どこからともなくリカコの右手に金槌が現れる。何をするつもりなんだろうと考える隙も与えず、
リカコは懐中時計の上に金槌を落とした。ガチャンと鈍い音が耳に届く。

「な、なんてことを……」

 文字盤を覆っていたガラスが砕け、秒針や短針などか折れ曲がって外に出ていた。
清美はぴくりとも動かなくなり、声すらも聞こえなくなった懐中時計をそっと拾いあげた。

「あーすっきりした。これで邪魔者はいなくなったわね」


 無邪気に笑うリカコに清美は憤りを感じた。

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