お狐様が嫁になれと言い出しました 72
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≪ 第六章 明らかになる事実 10 ≫



「やだ、本当に知らなかったんだ。じゃあ、わざわざ佐藤君を囮に使うことなんてなかったわね」
「何よ、それ……」
「何って、忘れちゃったの? 昨日文房具屋に言われたでしょう。佐藤君が着物を着た中学生と歩いてたって。
絶妙なタイミングで間に合ってたじゃない」
「な、なんでそのこと……」

 知っているのかと続けようとして清美はリカコをじっと見つめた。

「もしかして片平さんもリカが化けてたの?」

 認めて欲しくない気持ちが出てしまったみたいだ。清美は掠れるほどの小さな声を出す。
しかしリカコは無情にも正解を導き出したとばかりにこちらへ満足げに頷いて見せた。

「といっても正しくは私の子分が、だけどね」
「そんな……」

 狐は嘘をついていなかった。その事実が鋭い刃(やいば)となって清美の心に突き刺さる。
後悔しても遅いとわかっていても悔やむ気持ちが涙となって清美の頬を濡らした。

「なんでよ、なんでそんなことするのよ!」
「やだ、逆ギレ? でも最後にわかってよかったじゃない」
「え?」

 目の前に影ができ清美が顔を仰いだ。リカコの手のひらが顔を覆うように近づいてくる。

(やだ! また化かされる)

 清美はリカコの手から逃れようと体を横へずらす。しかし間に合わなかったようだ。
向き合うように立っていたはずのリカコが、制服姿の良人へと代わっていた。

「……良人君」
「清美ちゃん」

 良人が、自分の一番好きな笑顔を向けてくる。これでリカコの思いどおりにされてしまうのだろう。
結局、自分は何もできないのだ。懐中時計の願いを叶えて十和子を救うことも、商店街を存続させることも
できない。したことといえば、ずっと見守り続けてくれていた狐を傷つけたことぐらいだろうか。
 清美は自身の不甲斐なさに奥歯を噛む。すると不思議な現象が起こった。

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