お狐様が嫁になれと言い出しました 73
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≪ 第六章 明らかになる事実 11 ≫



「あんたには消えてもらうわ。でも最後くらいは好きな人の顔で殺してあげる。大丈夫、あっという間よ」

 顔は良人なのに口調はリカコのままだった。幻術は失敗したのだろうか。
諦めかけていた清美にはそれが希望の光のように思えた。

「何が最後よ!」
「往生際が悪いわね。あんたに何ができるのよ」
「わかんないわよ!」

 清美は蔑んだ瞳を向けてくるリカコへ体当たりをするように前へ出た。
しかしリカコが化けているとはいえ清美よりも背の高い男子を転ばせる威力はなかったようだ。
それでも隙間ができたことで清美はリカコから離れようとした。

「逃がさないわよ!」

 リカコが背後から飛びかかってくる。

「え、や、ちょ、きゃー」

 前のめりになっていたところへ背中を押すようにリカコの体重が追加される。
清美はバランスを崩し前傾姿勢のまま倒れた。

「いったー」
「もう逃げられないわよ!」

 うつ伏せになった清美の背中からリカコの声が落ちてくる。
ジンジンと熱を持つ手のひらと膝小僧を駆使して仰け反ると、腰のあたりにリカコが馬乗りになっていた。

「ちょっとどいてよ」

 いくら暴れてみても全体重をかけられているリカコに適うわけもなく。清美は体力を消耗するだけだった。

「さあ、観念なさい」

 起きあがることすらできなくなったこちらの首へリカコの腕が巻きつく。

「ぐっ……」

 空気が思うように入ってこず、目の前がチカチカする。

(やだやだ、こんなところで死にたくない)

 息苦しさの中で走馬灯のように過去が蘇ってきた。
音のない映像に出てくるのは家族でも、リカコでも、ましてや失恋したばかりの良人でもない。
幼い頃の自分と狐の姿だった。
 小さな自分が狐に身を預けながら幸せそうに笑っている。
しかし狐のほうは昨日逃げた時に自分が見た悲しげな表情のままだった。

(謝らなきゃ)

 このままでは死んでも死にきれない。清美は途切れそうになる意識の中、最後の力を振り絞った。

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