お狐様が嫁になれと言い出しました 8
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≪ 第一章 出会いは突然に 8 ≫






「ちゃん……清美ちゃん」

 名前を呼ばれ、清美は目を開ける。目の前に制服姿の良人が立っていた。

「あっ、良人君。なんでここに?」
「そんなこといいじゃないか。それより、僕とあっちへ行こう」
「そうだね」

 大好きな良人に微笑みかけられ、清美は何も考えられなくなった。

(ど、どうしよう。良人君と手つないじゃってる)

 握られた良人の手に自分のドキドキが伝わっていないかと不安になる。清美は下から彼を仰ぎ見た。

「ん? どうかした?」
(ち、近い……)

 良人の顔が思ったよりも至近距離だった。清美の頬が急激に熱を持つ。

(なんかいい感じかも?)

 幼なじみの関係を壊すことが怖くてためらっていたが、これはチャンスかもしれない。
脳裏に告白の二文字がよぎる。

「あ、あの」

 清美はなけなしの勇気を振り絞り、声を出す。それでも良人の顔を見ていられなくて下を向いてしまった。

「好きなの。良人君のことずっと……小さい頃から好きだったの」

 言えた。言ってしまった。心の片隅で後悔がくすぶる。だがそれよりもやり遂げた達成感に身を震わせた。

(手に汗かいてないかな? でもそんなこと良人君には訊けないし……)

 こんなふうに良人と手を繋げる機会など二度とこないかもしれない。
だったら今は何も言わず、彼の手の温もりを堪能しておこう。
良人の返事を待つ間、清美はそんなことを考えて気を紛らわしていた。
 どのくらい経っただろうか。手を繋いだまま俯いていた清美の両肩が突然掴まれる。
もしかして、と期待に胸を弾ませた。

「よし、ならばわれの嫁になれ」
「へ?」

 目の前にいる人物が理解できず、清美は瞬(まばた)きを繰り返す。
先ほどまで自分と手を繋いでいたはずの良人が、白金頭の美少年へ成り代わっていた。
いったい何が起こったのか。清美は思考が停止し動けなくなる。
その間に、人形のように整っている中学生の顔が接近してきた。

「いやー!」

 タコのように唇を尖らせた顔が目の前に広がる。清美は思いっきり相手を突っぱね、跳ね起きた。
 持久走を終えたあとのように呼吸が乱れる。

「ゆ、夢……よかった」

 心の底から安堵し、清美は胸に手をあて深く息を吐き出した。

「なんであんな夢なんか……って、私いつ寝たんだろう?」

 みんなで夕食をとろうとしていたことまでは覚えている。しかし、そのあとどうしたのかまるで
覚えていなかった。

「良人君のこととか商店街のこととか考えすぎて疲れてたのかなぁ」

 清美は目覚めたばかりの身体をムチ打ちながらのろのろと制服に着替え始めた。

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