お狐様が嫁になれと言い出しました 9
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≪ 第一章 出会いは突然に 9 ≫



「それにしてもいいところを邪魔してくれちゃってあのナルシー中学生め……」

 ようやく血のめぐりが脳まで到着したらしく、昨日の出来事が走馬灯のように駆け巡る。

「って、昨日、お祖父ちゃん変なこと言ってなかった?
あの中学生が神様とかなんとかって。しかも変な耳頭についてたし……」

 清美は呟きながら、すぐに否定する。どうせそれもさっき見た夢の一部なのだろう。
自分がこんなにも想像力豊かだとは思ってもみなかった。
苦笑しながら階段を降りていると階下から甲高く、それでいて煩わしくはない幾重もの笑い声が耳に
入ってくる。

(うちってこんなに賑やかだったっけ?)

 ぼんやりする頭で耳を澄ますと、左側から柔らかな声が聞こえてきた。

『清美様、おはようございます』
「おはよう」

 何も考えずに返事をし、ふと立ち止まる。

(今、挨拶されたよね?)

 だが、階段にいるのは自分だけのはずだ。なぜ声が聞こえたのだろう。
キョロキョロと見渡すと、左側の飾り棚に置かれた艶子(つやこ)という愛称の首振り人形と目が合った。
コケティッシュな黒い狐の目尻に描かれているピンク色のアイシャドーが可愛くて、見るたびに笑みが
こぼれる。

「寝ぼけてたのかなぁ? 艶子さんがしゃべるわけないもんね」

 たっぷりとニスが塗られて黒光りしている狐の尖った耳を触ると、頷いているように首を縦に揺れ出した。

(でも確かに声が聞こえた気がしたんだけどなあ)

 清美は首をひねり、考えこむ。

『ふふふ、わたくしですよ清美様』
「やっぱり聞こえた!」

 再度あたりを見回すが、誰も見当たらない。
清美は心霊現象という自分が最も苦手としているものを想像し、血の気が引いた。

「わ、私にその手の力はないから気のせいよね……」

 確信を持って口を開くが確証はない。口から漏れ出した声はひどく心許ないものだった。
 家が神社だから見えざるものが見えるだろう。そんな勘違いをされ、小学生の頃からよくからかわれた。
しかもなぜかゾンビやエイリアンといった関係のないものまで見せてくるのだ。
以来、その手のものを想像するだけで身体がすくむようになってしまった。

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