晩春の夜風に薫る記憶は 10
キイロイトリさんによる写真ACからの写真

≪ 第一章 五月の風に誘われて 10 ≫



「これよりご案内いたします。さあ、お早く。できれば、声を発てずに。……危険ですので」
「危険って」


 尋ねかけた言葉が最後まで紡がれることはなかった。

鼻先に、突如閃光が走ったからだ。


「うわっ!」


 咄嗟に避け、真人は尻餅をつく。

そこへ、一度は掠め過ぎて行ったはずの閃光が、わだかまる影とともに突進してきた。


「危ないっ!」


 振り返った青年が叫び、手を取ろうとしてくれるが間に合わない。

戦慄が全身を駆け抜ける。

真人は迫り来る恐怖を前に身動きの取れぬまま、たまらず目を閉じた。

 刹那、耳元へ激しい轟音が駆け抜けた。


(なんだ?)


 瞬時に塞いだ耳をそっと離す。

届いてきたのは、くぐもった短い悲鳴と小さく響く鋭い金属音だった。


(え……?)


 驚く間もなく聞こえてきたのは二つの足音である。


「真人様!」


 前方から飛んできた鋭い声に閉ざしていた目を開いた。

目前へ、駆け寄ってきた青年の顔があった。


「真人様!」


 息も絶え絶えに、顔を覗き込んでくる。

シルクハットの下、ちらりと映る真剣な眼差しに見つめられ、知らず胸が騒いだ。


「あ……」
「大丈夫ですか? お怪我はありませんか? どこも痛くありませんか!」


 畳み掛けるように青年が言い募る。

あまりの剣幕に、真人は二の句が告げなくなった。

やっとのことで首を上下に振ると、青年が安堵の溜め息を吐いた。

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オープニング背景画像:ぺるみけさんによる写真ACからの写真